建物の劣化診断とは?目的や費用、大規模修繕工事が必要かを解説

建物の劣化診断とは、建物の状態を専門家が点検し、劣化の程度や原因、対策などを報告書にまとめることです。
建物の劣化診断は、建物の管理者や所有者が、建物の安全性や快適性を確保するために必要なことです。また、長期修繕計画を立てる際にも、劣化診断の結果を参考にすることができます。

劣化診断とは

建物は、建築時から時間の経過とともに劣化していきます。劣化の原因は、自然災害や環境条件、使用方法や管理状況などさまざまです。劣化は、見た目だけでなく、建物の機能や性能にも影響を与えます。

例えば、構造躯体が劣化すると、建物の耐震性が低下し、地震の際に倒壊する危険性が高まります。また、外壁や屋根が劣化すると、雨水の浸入や結露によって、建物内部の湿度が上昇し、カビや腐食などの問題が発生します。さらに、電気設備や給排水設備が劣化すると、火災や漏水などの事故の原因になります。

劣化診断は、こうした劣化の状況を把握するために行われます。劣化診断では、建物の各部分を目視や打音などの方法で調査し、必要に応じて詳細な検査や試験を行います。

劣化診断の結果は、報告書にまとめられ、劣化の程度や原因、対策の提案などが記載されます。劣化診断の報告書は、建物の管理者や所有者が、建物の維持管理や修繕計画を立てる際の重要な資料となります。

長期修繕計画づくりのための劣化診断の目的とは?

劣化診断の目的の一つは、長期修繕計画を作成するためです。長期修繕計画とは、建物の寿命を延ばすために、将来的に必要となる修繕工事の内容や時期、費用などを予測し、計画的に実施するための計画です。
長期修繕計画を作成することで、以下のようなメリットがあります。

建物の耐久性

建物の耐久性とは、建物がその機能や性能を維持する能力のことです。建物の耐久性を高めるためには、劣化した部分を適切なタイミングで修繕することが必要です。

長期修繕計画を作成することで、劣化の進行状況や修繕の優先順位を把握し、必要な修繕工事を計画的に実施することができます。これにより、建物の安全性や構造性能を確保することができます。

快適な居住性

建物の居住性とは、建物が住む人にとって快適であるかどうかのことです。建物の居住性を向上させるためには、劣化した部分を修繕するだけでなく、住む人のニーズやライフスタイルに合わせて、建物の機能やデザインを改善することが必要です。

長期修繕計画を作成することで、住む人の要望や予算を考慮し、効果的な改修工事を計画的に実施することができます。これにより、建物の快適性や居心地を高めることができます。

資産価値の維持・向上

建物の資産価値とは、建物が売却や賃貸などの際に得られる価格のことです。建物の資産価値を維持・向上させるためには、劣化した部分を修繕することはもちろん、建物の魅力や付加価値を高めることが必要です。

長期修繕計画を作成することで、市場の動向や競合物件の状況を分析し、効果的な付加価値工事を計画的に実施することができます。これにより、建物の売却価格や賃料を高めることができます。

建物劣化診断の主な内容

建物劣化診断では、建物の各部分を点検し、劣化の程度や原因、対策などを評価します。建物劣化診断の主な内容は、以下のとおりです。

構造躯体

構造躯体とは、建物の骨組みとなる部分で、柱や梁、壁などが含まれます。構造躯体の劣化診断では、以下のような点をチェックします。

・ひび割れや変形、腐食などの損傷の有無
・構造部材の接合部や補強部の状態
・構造計算書や設計図などの資料の確認
・必要に応じて、非破壊検査や破壊検査などの詳細な検査

耐震性

耐震性とは、建物が地震の揺れに耐える能力のことです。耐震性の劣化診断では、以下のような点をチェックします。

・建物の構造形式や構造材の種類
・建物の重量や剛性、耐力などの構造特性
・建物の基礎や土台の状態
・建物の耐震設計基準や耐震診断基準の適合性
・必要に応じて、耐震診断や耐震補強の提案

屋根

屋根とは、建物の上部を覆う部分で、雨や風、日光などの自然環境から建物を保護する役割を果たします。屋根の劣化診断では、以下のような点をチェックします。

・屋根材の種類や形状、色
・屋根材のひび割れや剥がれ、変色などの損傷の有無
・屋根材の取り付け状態や固定具の状態
・屋根の傾斜や水はけの状態
・屋根裏の断熱材や通気性の状態
・必要に応じて、屋根の耐荷重や耐風性などの詳細な検査

外壁

外壁とは、建物の外側を覆う部分で、屋根と同様に自然環境から建物を保護する役割を果たします。外壁の劣化診断では、以下のような点をチェックします。

・外壁材の種類や形状、色
・外壁材のひび割れや剥がれ、変色などの損傷の有無
・外壁材の取り付け状態や固定具の状態
・外壁の防火性や防音性の状態
・外壁の汚れやカビ、藻などの付着の有無
・必要に応じて、外壁の耐荷重や耐風性などの詳細な検査

防水処理

防水処理とは、建物の水に弱い部分に防水材を塗布したり、防水シートを貼ったりすることで、水の浸入や漏水を防ぐことです。防水処理の劣化診断では、以下のような点をチェックします。

・防水処理の対象となる部分の種類や位置
・防水材や防水シートの種類や形状、色
・防水材や防水シートのひび割れや剥がれ、変色などの損傷の有無
・防水材や防水シートの取り付け状態や固定具の状態
・防水処理の効果や耐久性の状態
・必要に応じて、水圧試験や赤外線カメラなどの詳細な検査

鉄部(手すり、階段)塗装

鉄部とは、建物の手すりや階段などの金属製の部分で、建物の安全性や利便性に関わる部分です。鉄部の塗装とは、鉄部に塗料を塗布することで、鉄部の腐食や劣化を防ぐことです。鉄部塗装の劣化診断では、以下のような点をチェックします。

・鉄部の種類や形状、色
・鉄部のひび割れや変形、腐食などの損傷の有無
・鉄部の塗料の種類や色
・鉄部の塗料のひび割れや剥がれ、変色などの損傷の有無
・鉄部の塗料の塗り方や塗り重ねの状態
・必要に応じて、塗膜厚さや塗膜密着力などの詳細な検査

シーリング

シーリングとは、建物の隙間やひび割れにシーリング材を充填することで、水や空気の侵入を防ぐことです。シーリングの劣化診断では、以下のような点をチェックします。

・シーリングの対象となる部分の種類や位置
・シーリング材の種類や形状、色
・シーリング材のひび割れや剥がれ、変色などの損傷の有無
・シーリング材の充填状態や固定具の状態
・シーリングの効果や耐久性の状態
・必要に応じて、シーリング材の硬度や伸縮性などの詳細な検査

電気設備

電気設備とは、建物の照明やコンセント、スイッチなどの部分で、建物の利便性や快適性に関わる部分です。電気設備の劣化診断では、以下のような点をチェックします。

・電気設備の種類や形状、色
・電気設備のひび割れや変形、腐食などの損傷の有無
・電気設備の取り付け状態や固定具の状態
・電気設備の配線や接続部の状態
・電気設備の機能や性能の状態
・必要に応じて、電気設備の電圧や電流、漏電などの詳細な検査

給排水設備

給排水設備とは、建物の水道や下水、ガスなどの部分で、建物の衛生や安全に関わる部分です。給排水設備の劣化診断では、以下のような点をチェックします。

・給排水設備の種類や形状、色
・給排水設備のひび割れや変形、腐食などの損傷の有無
・給排水設備の取り付け状態や固定具の状態
・給排水設備の配管や接続部の状態
・給排水設備の機能や性能の状態
・必要に応じて、給排水設備の水圧や水質、ガス漏れなどの詳細な検査

衛生設備

衛生設備とは、建物のトイレや洗面所、浴室などの部分で、建物の清潔や快適に関わる部分です。衛生設備の劣化診断では、以下のような点をチェックします。

・衛生設備の種類や形状、色
・衛生設備のひび割れや変形、腐食などの損傷の有無
・衛生設備の取り付け状態や固定具の状態
・衛生設備の排水や換気の状態
・衛生設備の機能や性能の状態
・必要に応じて、衛生設備の水漏れやカビ、臭いなどの詳細な検査

アパート・マンションの場合はさらに下記の診断項目が追加

アパートやマンションの場合は、個別の住戸だけでなく、共有部分や周辺施設も劣化診断の対象となります。アパートやマンションの劣化診断では、以下のような項目が追加されます。

バルコニーや屋上

バルコニーや屋上は、住む人の生活空間としてだけでなく、建物の防水や断熱などの役割も果たします。バルコニーや屋上の劣化診断では、以下のような点をチェックします。

・バルコニーや屋上の形状や大きさ、位置
・バルコニーや屋上の床や壁、天井などの部分の損傷の有無
・バルコニーや屋上の手すりや柵などの部分の損傷の有無
・バルコニーや屋上の防水処理や排水設備の状態
・バルコニーや屋上の耐荷重や耐風性の状態
・必要に応じて、バルコニーや屋上の傾斜や水はけなどの詳細な検査

エントランスや廊下、外階段などの共有部分

エントランスや廊下、外階段などの共有部分は、住む人の出入りや移動に関わる部分で、建物の安全性や利便性に関わります。共有部分の劣化診断では、以下のような点をチェックします。

・共有部分の形状や大きさ、位置
・共有部分の床や壁、天井などの部分の損傷の有無
・共有部分の手すりや柵などの部分の損傷の有無
・共有部分の照明やコンセント、スイッチなどの部分の損傷の有無
・共有部分の防火性や防音性の状態
・必要に応じて、共有部分の耐荷重や耐風性などの詳細な検査

フェンスや、ゴミ置き場

フェンスやゴミ置き場は、建物の外観や環境に関わる部分で、建物の魅力や清潔に関わります。フェンスやゴミ置き場の劣化診断では、以下のような点をチェックします。

・フェンスやゴミ置き場の形状や大きさ、位置
・フェンスやゴミ置き場のひび割れや変形、腐食などの損傷の有無
・フェンスやゴミ置き場の取り付け状態や固定具の状態
・フェンスやゴミ置き場の塗装や清掃の状態
・フェンスやゴミ置き場の防火性や防臭性の状態
・必要に応じて、フェンスやゴミ置き場の耐荷重や耐風性などの詳細な検査

自転車置き場や駐車場

自転車置き場や駐車場は、住む人の交通手段に関わる部分で、建物の利便性や安全性に関わります。自転車置き場や駐車場の劣化診断では、以下のような点をチェックします。

・自転車置き場や駐車場の形状や大きさ、位置
・自転車置き場や駐車場のひび割れや変形、腐食などの損傷の有無
・自転車置き場や駐車場の取り付け状態や固定具の状態
・自転車置き場や駐車場の塗装や清掃の状態
・自転車置き場や駐車場の防火性や防犯性の状態
・必要に応じて、自転車置き場や駐車場の耐荷重や耐風性などの詳細な検査

平均的な劣化診断費用はいくらくらい?

建物の劣化診断費用は、建物の規模や種類、劣化診断の内容や範囲、劣化診断を行う業者や時期などによって異なります。しかし、一般的な目安として、以下のような費用がかかると考えられます。

30戸以下の小規模マンション

小規模マンションの場合は、個別の住戸と共有部分の両方を劣化診断することが多いです。また、建物の構造や設備が比較的シンプルなことが多いです。そのため、劣化診断の費用は、住戸数に応じて、約10万円~30万円程度となります。

50~100戸の中規模マンション

中規模マンションの場合は、個別の住戸と共有部分の両方を劣化診断することが多いです。また、建物の構造や設備が比較的複雑なことが多いです。そのため、劣化診断の費用は、住戸数に応じて、約30万円~60万円程度となります。

200戸以上の大規模マンション

大規模マンションの場合は、個別の住戸よりも共有部分の劣化診断に重点を置くことが多いです。また、建物の構造や設備が非常に複雑なことが多いです。そのため、劣化診断の費用は、住戸数に応じて、約60万円~100万円程度となります。

劣化診断後に大規模修繕工事が必要かを判断

劣化診断の報告書には、建物の劣化の程度や原因、対策の提案などが記載されます。これらの情報をもとに、建物の管理者や所有者は、大規模修繕工事が必要かどうかを判断することができます。
大規模修繕工事が必要かどうかを判断する際には、以下のような点を考慮することが重要です。

建物の安全性

建物の安全性とは、建物が住む人や周囲の人に危害を及ぼさないかどうかのことです。建物の安全性が低下すると、火災や倒壊などの事故のリスクが高まります。

そのため、建物の安全性に関わる部分が劣化している場合は、大規模修繕工事が必要となります。例えば、構造躯体や耐震性、防火性などの部分が劣化している場合は、大規模修繕工事が必要となります。

建物の快適性

建物の快適性とは、建物が住む人にとって快適であるかどうかのことです。建物の快適性が低下すると、住む人の生活の質が低下します。

そのため、建物の快適性に関わる部分が劣化している場合は、大規模修繕工事が必要となります。例えば、外壁や屋根、防水処理などの部分が劣化している場合は、大規模修繕工事が必要となります。

建物の資産価値

建物の資産価値とは、建物が売却や賃貸などの際に得られる価格のことです。建物の資産価値が低下すると、建物の管理者や所有者の経済的な損失が発生します。

そのため、建物の資産価値に関わる部分が劣化している場合は、大規模修繕工事が必要となります。例えば、外観やデザイン、付加価値などの部分が劣化している場合は、大規模修繕工事が必要となります。

まとめ

建物の劣化診断とは何か、劣化診断の目的や内容、費用、大規模修繕工事の判断基準などについて解説しました。
建物の劣化診断は、建物の寿命を延ばし、安全性や快適性、資産価値を高めるために必要なことです。

建物の管理者や所有者は、定期的に劣化診断を行い、適切な修繕計画を立てることが大切です。劣化診断を行う際には、信頼できる業者に依頼することも重要です。

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